行っときたい展覧会 2025年 1~3月編①
本題の前に:近況
前の更新から随分空いてしまった…本年もよろしくお願いいたします。
前回は投票についてのお話をしました。日本の国政も県政にも大きな動きがあり、世界情勢でも大きな動きがありました。しかし世界情勢に関しては、よく言われるとおりパレスチナについてなどには報道でもその語りに偏りがあり、さらにいえばどこの地域で起きているかによって注目の大きな偏りがあることをアフリカ研究者として改めて感じております。「理性の地理学をシフトせよ」ですね。(中村達先生、サントリー学芸賞受賞おめでとうございます。)
このブログについては、年末年始に「投票以外の政治的参与としての寄付」みたいな題で、私が毎月寄付しているNPOや学術クラファンを紹介しようとしていたのですが、そこにシリアで活動されている団体も、パレスチナの政治的なアプローチに関わる団体も含まれていました。なのでちょっと修正加筆してまたお届けします。
また中村の書いたものとして、11月末に一つ原稿が出版され(『アステイオン』101号です)、また3月に出る原稿を執筆してきました。特に後者はめっちゃ今重要なことを書いたと思う。これらの話も後日します。
パレスチナのことに関しては、ガザ地区関連の人が主催してくれている抗議に参加しつつ、自分はガザ地区内の個人への募金を3つ主催して、その他にもできる範囲で募金していました。特に個人への募金・送金にご協力頂いた方はありがとうございました。一方で、新しい活動のやり方を準備しています。またお知らせします。
さて、今回は、本当なら昨年からやろうとしてた美術展覧会紹介記事です。
大学院の全体メーリスで展覧会情報を共有してきたんですが…
メーリス活動の経緯です。これもちょっと長いのでもういいよという方は読み飛ばして次の本題をご覧ください。
私が所属している大学院の京大ASAFASではアフリカと近現代美術に関して学べる講義もなく、指導できる専門教員もおられません。そのことは了解して入学したものの、先生や先輩のなかで、美術や視覚文化が西洋中心的な権力とどれだけ関わっていて、植民地主義を支え、またある時はその抵抗に使われてきたかについても関心を持っている人が予想外に少なかったのです。特に、美術を頂点として視覚文化が支える植民地主義的な文明観、それによって世界の文物や文化がカテゴライズされること、それがアフリカと西洋だけでなく、日本の、まさに我々の日常の文明的、洗練の感覚にも浸透しちゃってるという話があまり通じなかった。
むしろ、アートワールドで取り上げられる現代美術なんてアフリカでも一部のエリートにしか関係しないのでは?とか、趣味的なものである、投機的な要素があるという前提に立った(研究者としては)雑な質問や言説を投げられることもありました。まあこれは美術の専門家が逆にアフリカのことや地域研究にやってくることもあるし、そういう断絶があるから私の仕事のやりがいもある…と今なら思えるのですが。
そういったことに対して、先行研究や議論のレビューをしっかり行って体系的に反論できたらよかったのですが、かつての私にはその能力がなく、気の強さと具体例だけでなんとかしていた時期がありました。その取り組みの一環がこのメーリス配信です。
最初は、まずアフリカ現代美術シーンのできごとを紹介していた気もしますが、だんだん、美術と工芸の境界線とか、自分の研究テーマに関わる展示や情報も共有するようになりました。
京都に、関西に、これだけジェンダーや人種主義、西洋中心性の問題に関わる制作や展示があるのに!美術はどこか西洋的な権威が決めている趣味的な問題ではなくて、むしろあなたたちの研究にも実存にも関わる問題なのに!っていうか、せっかく京都にいるのに美術がどれだけ批評的な実践してるか知らんの勿体なさすぎるやろ!
……みたいな気持ちで誰に頼まれるわけでもないのに全体メーリスに勝手に「最近行ってよかった、行こうと予定している」展覧会情報を配信する。これが、意外と会ったことない先輩や後輩に好評を頂き、わざわざメールを頂いてお話をしたり、その出会い・繋がりから教職のお仕事を頂くことになったこともありました。
紹介する展示・企画に明確な選出基準があるわけでもなく、また、アートラバーの方がよくなさっている美術巡りレポとも質が違うのですが、まず「私が(研究関心事に関連して)行っておきたい」展覧会であるし、さらに、私が研究や実践を通じて目指すような、視覚文化についての新しい軸を多くの人が持ってくれる社会を目指すなら皆も「行っときたい」展示なんじゃない?ぐらいのニュアンスで紹介しています。ちなみに関西中心の視点での紹介です。東京の(あるいは全国的な(!))「行くべき」展覧会は各種メディアがやってるしまあええやろ、と。もちろんそこで紹介されてるものとかぶることもあります。
「脱植民地化」とか「地域研究」といったテーマについて説明したり、共有して議論・行動する際に、もちろん文章での説明などは非常に大切なのですが、こういう展示の体験を経ていてもらうことが、自分の身体を通じて理解のきっかけになり、その人なりの立場づくりの重要なキーになるとも思うのです。前置きが長くなりましたが、ちょうど大学院メーリスで共有したところの展覧会情報を共有します。今回も、既に行ったものも、行ってないものも混じっています。
※万が一個別の情報に間違いがあっても申し訳ありませんが、こちらで補償はできません!無料ブログなのでそこはご容赦ください!URLに飛んで、情報をご確認下さい!
1.「坂本森海:火と土と食べたいもの」
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会期: 2025年1月11日(土)~3月16日(日)
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時間: 10:00~18:00
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会場: 京都京セラ美術館・ザ・トライアングル
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休館日: 月曜日(祝日の場合は開館)
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観覧料: 無料
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坂本森海さんは、陶芸を中心に活動する現代美術家であり、各地で自ら粘土を採取し、自作の窯を用いて作品を制作しています。陶土について素材に誠実に、クリティカルな制作を行う気鋭の若手の一人です。京都・関西にはこういう作陶表現者の新世代が出現しているのですが、その背後にある、戦後京都の陶芸教育・前衛からの系譜についても考えているところ。本展では、窯と映像、写真を用いたインスタレーションのほか、ワークショップやパフォーマンスなど、陶芸の新たな可能性を探る展示が行われます。同時に京セラでやってる「世界が見惚れた京都のやきもの~明治の神業」も重要です、ぜひ。
また併せて、明日土曜日、14:00-15:30(13:30受付開始、予約不要、無料)にトークイベント「火と土と食べたいものとしゃべりたいこと」が開催されます。坂本さんの京都精華大の陶芸科出身であり美術家の中村裕太さんをゲストに、「粘土」「現代の陶芸」「周縁」「用の美」「リサーチ」「お手柔らかに近代性」のトピックからおしゃべりします。
2.「リテラル コリジョンズ / 文字通りの衝突」
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会期: 2025年1月18日(土)~2月23日(日)※会期中の水曜日は休廊
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開場時間: 10:00~17:00
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会場: 半兵衛麸五条ビル2F ホールKeiryu
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入場料: 無料、主催: FINCH ARTS
· 「文字」を表現の一部として扱う芸術的実践を概観する意図で企画された展示。陶芸を中心に現代的製作をするリュ・ジェユン(류제윤)さんをはじめ、出品アーティスト(敬称略:神馬啓佑、中村ケンゴ、NAZE、長谷川由貴、福岡道雄、Jenny Holzer、丸井花穂、Glenn Ligon)の作品を通じて、文字表現の多様性が見られるそうです。
3.後藤瑞穂さん 出品グループ展(2件)
・グループ展「STILL」 2025年1月14日(火)~2月22日(土) 12:00 ‐ 19:00(水・木 休廊) ビーク585ギャラリー (大阪) @beak585gallery
・グループ展「Greeting」 2025年1月11日(土)~1月28日(火) 11:00‐20:00 京都 蔦屋書店 6Fギャラリー @gallery_kyoto_tsutayabooks いずれも無料。
後藤さんは2001年生まれ、女子美術大学の博士前期課程に在学中の若いアーティストで、油絵を主に制作されています。パレスチナ関連の抗議活動など、アクティビズムにも積極的に参与しながら制作を両立する、まさに新世代の在り方を感じるアーティストで、絵画がまだ持っている可能性を感じることのできる素敵な作品です。蔦屋は河原町高島屋6階ですのでぜひお気軽にお立ち寄りください。ちなみに、蔦屋書店自体はかなり賑やかというか全てを商品として並べ立てるぞ!という商業主義の圧のある空間で……置いてあるものは美術作品や美術図録や学術書なんだけど、全部が商品になっていくような…ポップアートより批評性あるやろ、などと思っておりました。後藤さんの作品の展示周辺は避難所のような落ち着きがありました。
4.「PARALLEL UPPALACE~あたらしい友だちとの遊び、もしくは蜃気楼~」
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会期: 2025年1月11日(土)~2月2日(日)
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開廊時間: 13:00~18:00(休廊日: 月・木・金曜日)
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会場: アトリエひこ・となりの三軒長屋 (大阪市平野区平野本町4-3-20)
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入場料: 無料
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参加アーティスト:アトリエひこのメンバー・アーティストら10名が参加
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概要:アトリエひこは、ダウン症と重い心臓疾患を持つ大江正彦さんの母親が、息子に絵を描かせるために石崎史子さんと協働して、1994年に設立したプライベートアトリエです。本展では、アトリエひこのメンバーと現代美術作家、詩人、映画監督など多様なアーティストが協働し、「遊びの提案」を通じて、異なる背景を持つ者同士の関係構築を探求するとのこと。美術を触発する「他者」としてのアール・ブリュットでも、福祉的な観点での「障害者アート」でもない、「一緒に遊ぶ」場としての美術の場を30年続けてこられたアトリエひこさん、石崎さんの新しい挑戦です。
私も何度か訪れていますが、こちらの取り組みや展示には、「美術」が持つ他者をまなざす力、とりこむ力が解呪されていく可能性さえ感じます。「人形劇(しつこい節分)」(2月1日開催)など、色んな関連イベントもあります。ぜひご覧ください!
5.個展「Osaka Directory 9 Supported by Richar Mille KOURYOU」
・会期: 2025年1月25日(土)~2月24日(月・休)休館日: 月曜日(ただし、2月24日は開館)
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開館時間: 10:00~17:00
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会場: 大阪中之島美術館 2階 多目的スペース
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概要:上記のアトリエひこの企画にも参加するKOURYOU(こうりょう)さんの個展、関西ゆかりの若手アーティストを個展形式で紹介するシリーズ「Osaka Directory」の第9弾として実施されます。KOURYOUさんは、ウェブサイト、絵画、立体作品など多様な手法で作品を制作しており、2019年からは移動する海民をテーマにしたアートプロジェクト「EBUNE(家船)」を展開しています。
そのEBUNEでたまたま西成に「漂着」して以降ここ数年、いわゆるリサーチベースドアートとも、地域アートとも違う、地域とのかかわりを西成や此花で続けてこられました。相互に最上のものを差し出すような、美術と地域との出会い方、信頼の築き方には、フィールドワーカーとしても感じることが多いです。今回の展示では、大阪中之島美術館が近世の蔵屋敷跡地に位置することに着目し、中之島に多くの物や人、情報が船で運ばれてきた歴史と自身の「EBUNE」活動を重ね合わせ、さまざまな文化が集積するこの地で見えてくるものをテーマにしたインスタレーション作品を発表されるそうです。
6.「第11回日展神戸展」
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会期: 2025年2月15日(土)~3月23日(日)休館日: 毎週月曜日(ただし、2月24日は開館し、2月25日は休館)
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開館時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで)
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会場: 神戸ゆかりの美術館・神戸ファッション美術館(六甲アイランド内)
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入館料:一般: 1,200円、大学生・65歳以上: 600円、高校生以下: 無料(学生証、生徒手帳などの提示が必要)
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日展といえば、明治の美術制度建設の一環である文展・帝展にルーツを持つある意味保守的な、しかし現代のアートシーンではもうあまり力を持たないといってもいい公募展ですが、KOURYOUさんとEBUNE西成漂着にも参与された、本宮氷さんが釜ヶ崎で出会った人物をモデルにした洋画を出品されています。
現代美術のコレクティブや独特なプロジェクトに参加しながら、そこで得たものを画壇的な場所にも発表する人がいる……同時代の日本美術の一つの在り方として大変面白いと思います。美術のそれぞれの場所に面白さがあることについて再考できるはず。ぜひご覧ください。
ちなみに日展は京都でもやってて、私の父親の作品も出ていました。私の美術制度への懐疑というか批評的観点は父の仕事を横目に見ていたことに由来している。
7. 「アーティスト・プロジェクト#2.08 松平莉奈 コードとモード」
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会期: 2025年2月1日(土)~5月11日(日)(休館日: 月曜日(ただし、2月24日、5月5日は開館)
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開館時間: 10:00~17:30
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会場: 埼玉県立近代美術館 2階展示室D
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観覧料: 無料
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松平さんは、京都市立芸大の日本画専攻の出身で、日本画の領域で培われた技術や画材を咀嚼しながら、日本画を解放するような同時代的制作をされています。人と人が完全には理解しあえないことを前提に、「他者について想像すること」をテーマに具象画を制作されています。歴史上あまり注目されてこなかった人物や史実へのリサーチにも取り組まれており、近年、松平さんは幕末から明治期に活躍した女性南画家である南画家・奥原晴湖(1837-1913)の作品と生涯に関心を抱いておられます。今回の展示では埼玉ゆかりの奥原晴湖の足跡を追う中で見出した学び(=code)と、松平独自のスタイル(=mode)をテーマに作品を発表されるそうです。学芸員さんによるトークや作家さん自身によるスライドレクチャーもあるそうです。松平さん作品を見る度、あくまで素材や技法に忠実に遂行されるリサーチやものごとの咀嚼は美術・創作にしかない可能性だと感じます。
昨年の半兵衛麩ビルとか高島屋の展覧会もめっちゃよかった。こちらも必見でしょう。
以上です。みなさんも「行っときたい」展示よければ教えて下さい。(あとURL貼ったらプレビュー・サムネ出すにはどうしたらいいんだろう…次回までになんとかしておきたい。)
そんな感じで!
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