近況報告 / 行っときたい展覧会2025年6月
だいぶご無沙汰になってしまいました……
近況報告① 刊行物と最近の活動
この間に2つ刊行物が出ました。どちらも雑誌への寄稿です。
・「「頭と胴を繋ぐ」言語としての―ベナンの現代美術シーンと脱植民地化―」『アステイオン』101号(サントリー文化財団、2024年11月)
・「文明を洗練させる美術の「力」に抗して――関西から2024年を複数化する 」『だえん2024』(だえん編集部、2025年)
https://daenpub.base.shop/ ※電子版もあります
どちらも、自分がやってきた美術の脱植民地化に関する研究とも、そして世界や日本の現況と文化の関わりに関しても重要なことを書いたと思うので、ぜひ読んで頂きたい。特に『だえん』については、私の記事は関西を中心とした8つの展示や企画を具体的に取材しながら書いたもので、雑誌自体も同世代の編集者が熱心に取り組んだDIYな媒体かつ他の掲載者も豪華で、心の底からお薦めします。またゆっくり宣伝したいと思います。
この春休みから新年度はこの『だえん』の原稿と、某美大卒展の講評、投稿論文、そして下記で紹介するリュ・ジェユンさんのカタログに掲載する評論をやっていました。某美大に関しては実はこの春から陶芸専攻の院生の指導(コンセプト面に関わるリサーチや修士論文の指導)の非常勤として働き始めていて、現役のアーティストの先生の下で働く経験は、自分にとっても転機となっています。この話もまた個別の記事にできたらいいなと思っています(が、いつになることやら…。)
並行して、ガザ地区への直接送金を含む支援や抗議活動を続けています。その一環として、昔からの知人と脱植民地化を軸に同時代の問題について語り、行動に繋げるpodcastを開設する準備をしてました。もうじきやっとオープンする…予定!特にパレスチナの問題など、行動を続けている人たちは疲弊しているが、日本社会の大多数(や、意思決定に関わるような大人たち)がぐっと動くには距離があるという実感があり、その辺に有効な働きかけができるプラットフォームにと思って作っています。社会活動の常連というわけではない人たちと企画を作る中で、色んな気づきがありますね…。
そして、十三のGolden Strikeというセーファースペースで定期的に開催されている、大阪万博を批判的に考える会議に出席していて、一度アクションに参加したりしました。これはアクションも参加しつつ、「万博」とか「維新」について再考する、関西の色んな人に広く届く言説を作りたい(それが自分にできる役割かな、的なことを考えつつ)と思っています。
近況報告➁ 信楽の窯業試験場での講演
5月27日、信楽の窯業試験場で、「新しい世界地図の中の信楽:窯業・陶芸・美術の往還と「陶芸の森」ができるまで」というタイトルにて講演を行いました。念願の開催。(インスタの告知投稿…ここでも告知しろよって話なんですが、、、)
こういった内容の企画は「陶芸の森向き」であると一見思われがちな現況もあり、試験場での開催は少し珍しく、企画の実現までには、高畑場長を始め、山内様・白井様ほか試験場の皆様に大変にご尽力いただきました。
2018年からフィールドワークを行ってきた信楽で、聞き取りに協力して頂いた産地の皆様(陶芸作家から、窯元や問屋の関係者、そして試験場のかつての職員さんや料理屋の方々まで…)に博論の成果を報告しつつ、今、試験場や窯業、陶芸の森に関わる若い世代の方にも、信楽の現況に対してクリティカルな議論を…という狙いで会を実施しました。
上記のサントリー財団の雑誌の論考でも引用したジョージ・ラミングの「頭と胴」の議論をキーワードに、世界中で注目されている「美術と陶磁の接近」の本当のところ―美術と産業・美術と地域の間に残される植民地的断絶―について、それが信楽の歴史と現況とどう関係するかお話しました。特に講演の後半は、聞き取りを元に「陶芸の森」ができるまでの、美術史や工芸史が取りこぼした窯業の系譜の掘り起こしとなりました。そして私たちには「頭と胴を繋ぐ」ために、地域の文化資源を活かすために何ができるか…ということをご来場の皆さんとトークしました。
会には幅広い世代の方がお越し下さいました。それこそ走泥社にかつて所属した方々から、20代の若手作家、窯元などのメーカー勤務の創業者世代の方と新世代の方、陶芸の森や試験場で最近働き始めた若手の文化労働者の方々……試験場の研修生にも色んなバックグラウンドの方がいらっしゃいました。あと上記の万博会議で知り合った方が大阪からいらして下さったのもびっくり!
トークの時間には、すごくアツいコメントを残してくれた方が複数いらして、どんな世代・職業の方も、産地がせっかく持つ地域の文化資源を産地の住民が主体的に繋いでいくためのことをそれぞれの立場から考えておられるんだなあと感慨深かったです。終演後に心のこもったメールなどをくれた方も複数おられました。
特に、かつて走泥社同人でもあった笹山忠保さんのコメントは意義深かったので紹介したいと思う。信楽の窯業の系譜の掘り起こしにあたっては笹山さんの語りや資料提供にめちゃめちゃ助けられたのですが、それが活かされた後半部の発表は自分の物語でもあるから感慨深かったとコメントしつつ、前半で話した美術と工芸の境界線についての批評的な動き、脱植民地化の動きは重要だと思ったとお話下さいました。
そこで紹介されたエピソードは、笹山さんにとっては先生でもある八木一夫が、結局晩年まで美術と工芸とのはざまで苦悩し(自身のことを)「工芸とも美術ともつかぬ「鵺」と知った」と語ったこと、そして、笹山さんご自身も、親交のある横尾忠則などから「現代美術の領域でやらないんですか?」と聞かれるけど、自分ではどうしても「尾骶骨のようなもの」があるように感じられて「現代美術だ!」と言い切れないような感覚があり…というようなことでした。
産地に根付いて窯業やクラフトデザインと領域横断的な豊かな関わりながら、昭和・平成とやきもの制作を続けてきた人をして、90歳を越えてもやはり、自分のルーツを気後れしたような意味で「尾骶骨」だと言わしめる「美術の力」の恐ろしさ(これは『だえん』に寄稿した論考のテーマでもあります)を改めて感じたと共に、近年の美術シーンのセラミックブームではないことにされそうな、でも確かにあったこの切実さについて忘れないようにしようと思ったのでした。
ちなみにこの会で甲賀市の文化財関係の職員の方と出会えたため、信楽の部分を論文化するにあたって聞き取りの内容を文書と照合したり、今後のアーカイブを構築したりするのに展望も開けました。引き続き頑張ろう。
行っときたい展覧会
前回のレターと同じ趣旨で6つ紹介します。一個目はもはや今日やんって感じですが…記録のために、すみません。※6以外全て入場無料です。
1.「修復の練習」To Mend, Again
2025年6月1日(日)9:30 – 18:00まで https://all-minorities.com/news/335/
会場:The Terminal Kyoto(地下鉄四条・阪急烏丸から徒歩10分ぐらい)
参加作家:播磨みどり、猪原秀陽、佐々木萌水、𡧃野湧、山本高之
キュレーター:金澤 韻
主催:オールマイノリティプロジェクト
𡧃野湧さんの陶を使った平面作品、金継ぎなどの「継ぐ」技法に独自の軸でアプローチしてきた漆の作家、佐々木萌水さんの作品が特に秀逸です。展覧会は、異なる特性を持つ人の間のコミュニケーションを主題に「壊れても修復すること」をテーマとしたキュレーションで、国際的なアートのシーンでも重視されているMendingの文脈にも接続した上手いキュレーションでさすがだな~と思いつつ、
私は、生きている人間のコミュニケーションとしてのMendingの可能性よりもむしろ、𡧃野さんや佐々木さんの作品から、「壊れたら戻らないこと」や「それでも時間は流れていくこと」「こぼれ落ちたり剝がれ落ちるようなものとして人生を抱えていくこと」「遠い時間の先に軌跡として繋がりうること(失われた記憶からそれを可能にするラディカルな想像力)」…などに思いを馳せました。
ちなみに𡧃野さんの作品は、多治見のとうしん美濃陶芸美術館にて開催中のNEXT 2025にて、6月29日まで見ることができます。https://a2tajimi.jp/c-news/16978/
2.山口 遼太郎 陶展 「へやにうみ ひかりのつぶ」
2025年6月2日(月)まで
会場:京都高島屋6階 美術工芸サロン
日々の思いがけない瞬間や風景、思いついた秘め事を記録するように土で造形する、京都市立芸大出身の若手作家の個展です。修復の練習店同様、大変繊細な陶の作品で、浮遊感や軽やかさを纏った詩情豊かな作品が展示されています。緊張感があるけど、暖かみもある作品群と空間で素晴らしかったです。
3.奥誠之 個展「われらをめぐる海」
2025年6月8日 (日)まで ※金曜から月曜のみ開館(月金 13:00 - 20:00土日 12:00 - 19:00)
会場:共同書庫(西ノ京、JR円町駅から徒歩12分程度)
奥さんは、フルタイムの図書館司書業務と、自ら「絵描き」と名乗り「声と絵の具、発声と筆致がイコールになるような表現」をめざした絵の制作を両立する作家です。2023年10月以降は特に、パレスチナ連帯デモや沖縄の基地負担に反対する社会運動に時間のほとんどを割き、身を投じています。今年3月に東京のVOCA展と関連展示として複数個所で開催された「بحر」展の(バハル: アラビア語で「海」「韻律」の意味)作品を再構成し、様々な人の蔵書が並ぶ空間に作品が配置されています。
美術で社会問題を訴えるというよりは、社会問題さえも巻き込みながら発展する美術の「力」に違う形で力をかけるように活動している奥さんの活動から、文化と社会の関わり方を再考することができます。(1日500円、コーヒーつきで2階の本を自由に閲覧できます)。
ちなみに上記の「だえん」の記事で奥さんの活動については第一項で言及しています。
4.RYU JEYOON個展 - 人生の端っこで出会う鳥(The Bird I Met at the Edge of Life)
2025年6月15日(日)まで 時間: 10:00 — 19:00
会場:GALLERY NEUTRAL(堀川新文化ビルヂング2階)
韓国から京都市立芸大の院に留学を経て、日本拠点で制作を続けるアーティストのリュ・ジェユンさんの個展です。「そういうことになっている」を一つ一つ疑いながら手作りで自分のキャリアや人生を切り拓き、人間関係を作りながら、それと並行するように新しい陶磁の造形表現を追究されています。
この展示開催に合わせ、自主編集で初図録『土と歩く』が出版されます。私中村も評論「アトリエの壁と断熱材——リュ・ジェユンにおけるDIY精神と他者」を寄稿しています(日・英・韓の3か国語使用)。作品ももちろんですが、図録も良い仕上がりになっているはずなのでぜひご購入下さい!6月7日に出版パーティーが開催される予定です。
最近色んなとこで繰り返している、「パンクというのはDIY(棚作るとかじゃなくて、自分でやること)」はこのインタビューでリュさんから聞いて感銘を受けた、いわば受け売りです。
5.後藤瑞穂個展 「憶えている景色、見た事があるレモン」
2025年6月3日(火)~23日(月)
会場:京都蔦屋書店ギャラリーウォール(京都髙島屋 S.C.6F)
前のご紹介した、女子美術大学大学院に在学する超若手アーティストの個展がやっと京都で!歴史的事象、主に植民地主義的な暴力などに焦点を当てたリサーチを経て、過去と現在をつなぐ「見えない線」を見出し、果物や道具、人間のしぐさなどを日常の瞬間として表現する絵画を制作されています。絵画制作とアクティビズムを活発に両立する新世代の姿勢には励まされるし、眩しいものを感じます!この個展では「似ているもの」をキーワードに、ホロコーストなどの歴史的な出来事や暴力と、現在社会における類似点や既視感にアプローチした作品群がみられるそうです。
6.「海外で作られた見立てと注文の茶道具」
2025年6月22日(日)まで
会場:湯木美術館(京阪淀屋橋から徒歩五分) 入館料一般700円/大学生400円/高校生300円
茶人たちが、異国の新たな意匠や技術を積極的に取り入れ、茶道具のバリエーションを豊かにした「見立て」と「注文」の在り方について、海外で作られた茶道具を展示しながら知る展覧会。中国・朝鮮の器から、インドの更紗の包物(風炉敷)、オランダの染付茶器まで展示されます。前近代の文化受容、現在とは違う地図の中での文化混交について考えられる機会になる大変貴重な展覧会だと思います。
やきものを考える上で避けて通れない茶道ですが、そのトランスナショナルな側面について、戦後に制度化された「伝統」から離れて考える余地も多いにあります。個人的には、コンゴ民主のアーティスト、サミー・バロジがウフィツィでやった展示を念頭に置きながら、日本も(前近代の歴史が無謬だとするのではないが)帝国になる前の東アジアや東・東南アジアとの関わりについて再考したいし、植民地帝国として拡大を始めた頃のヨーロッパと近世の日本の関わりについてもちゃんと学び直したい…と思っている今日この頃です。
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